A Fistful of Films

映画のために...

オンライン映画祭は果たして魅力的なのか

「マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル」という映画祭が2月19日までやっている。ユニ・フランスが主催し、今回ですでに8回目とのことだが、恥ずかしいことについ最近までその存在をまったく知らなかった。映画祭の名を耳にしたこともなければ、友人に教えられたり勧められたりされたこともなく、世話になった先生に見ろと言われたことさえなかった。どれくらいの知名度があるのだろう。気になるところだ。今度まわりの人たちに聞いてみようと思う。恐らくそれほど知られていないのではないか。

フランス大使館が紹介していたから、新設されて10年と経たないあの鋭利な建築を会場に開催されるのかと思いきや、どうやらオンラインでの配信に特化したものらしい。サイトには「世界初のオンライン映画祭」とある。作品は日本未公開のもので占められているようだ。今年の審査委員長は若くしてイタリア映画界の巨匠となったパオロ・ソレンティーノ。フェリーニや後期ヴィスコンティのように耽美的な映像を撮りつづける彼がどんなフランス映画を評価するのか。

いまやフランス映画祭(6月末、有楽町朝日ホール)の上映プログラムが日本公開予定の作品ばかりで占められていることを考えれば、ギョーム・カネ、ヴァンサン・マケーニュ、マチュー・アマルリックらの「フランス国外未公開作品」が12本も並んでいることは大きな強みだと思う。フランス映画を好む者なら誰だって見たいに決まっている。さらには、初監督作がいくつかあるのもいい。昨年の秋からというもの、ゴダールリバイバル上映、メルヴィル特集、ドワイヨンやオゾンの新作公開などがつづき、古典と新作の別によらず、フランス映画を見られる環境はミニシアターはおろかシネコン(ドワイヨンはシネコンだった)でさえ充実していると言えそうだが、しかし振り返ってみれば、かつてフレッド・カヴァイエ、グザヴィエ・ドラン(ケベックだが)、ミア・ハンセン=ラヴ、ギヨーム・ブラックらのデビュー作に興奮を覚えたように、新人の鮮烈な作品に参りましたとのけぞるような体験をわれわれはここ数年ほどしていない。

しかし、やはりネットでの配信をダウンロードするとなると、途端に足踏みしてしまう。いくら「世界初のオンライン映画祭」と得意気に言われたところで、鑑賞欲がどんなに低く見積もっても6~7割くらい失せてしまう。A4程度のパソコン画面でイヤホンをつけて見ろというのはさすがに酷というものだ。とくに『夏が終わる前に』(ジャック・ロジエ監督作『オルエットの方へ』の元気ハツラツなパリっ娘3人をイラン系の男子学生3人に置き換えたような作品なのだ!)のようなバカンス映画は劇場でなければとても見ていられない。スクリーンでかかろうものなら劇場まで飛んでいくのに。そこが惜しい。こんなことを言うと、「未公開作を見られるだけ恵まれていると思え」と怒られそうな気がするが。とはいえ、わたしのような<映画館=スクリーン主義者>はともかく、パソコンでの映画鑑賞に慣れている人たちにとっては、こうしたオンライン映画祭はさぞ魅力的なのだろう。それが地方に住むフランス映画ファンならなおさらだ。時代の流れを感じる。

フランス映画の最前線をスクリーンで見るのなら、いまのところ、アンスティチュ・フランセ(旧東京日仏学院)で開催される「カイエ・デュ・シネマ週間」がいちばん良いのかもしれない。ジャック・リヴェットクレール・ドゥニのような古典作品への気配りが行き届いた本格的な年もある。もっとも、天下の「カイエ」だけあって、相当な映画好き以外は寄せ付けないような、いわゆる映画原理主義に傾きすぎな感じがしばしばあることは否めず、もっと肩の力を抜いていいのではと思うこともあるけれど。大学に入って二年目の頃、映画評論家の先生にチラシや冊子を渡されたときの記憶がふとよみがえってきた。映画学徒の古き良き思い出である。東京から名古屋に移ってからは足が遠のいている。久々に行きたい。

 

※マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルの情報はこちらhttps://jp.ambafrance.org/article12624