A Fistful of Films

映画のために...

伊藤大輔と加藤泰のレア作品

新しい月になると、BSプレミアムの映画カレンダーを自ずとチェックしてしまう。月替わりのささやかな「ゲームの規則」だ。あまりにも気が早いが、二か月先の放送ラインナップを見て驚いた。ページのいちばん下に幻の映画があるではないか。それも二本も。伊藤大輔の『この首一万石』、そして加藤泰の『炎の城』。いやはや、これには参った。

 後者こそ加藤泰のレトロスペクティブ(2016、フィルムセンター)で奇跡的に上映されたものの、この二本の東映時代劇はどちらもいまだソフト化すらされておらず、これまで見ることがきわめて難しい作品だった。フィルムセンターを除けば、おそらく神保町シアター京都文化博物館くらいでしか上映されていないのではないか。地方に住む者にとっては、それに立ち会う可能性はゼロに限りなく近い。いずれにせよ、そう易々と鑑賞できる代物ではないことは明らかだ。それが二日にわたってBSで上映されるのだから、何やらいつもとは異なる興奮を覚えずにはいられない。紛れもなく2018年最初の事件である。

主演はいずれも大川橋蔵。そう、「新吾十番勝負」でお馴染み、東映時代劇の大スターだ。伊藤大輔はすでに円熟期に入って久しく、遺作を撮ったのが1970年であることを考えれば、映画監督としてのキャリア的には晩年にさしかかりつつあった。対する加藤泰はいよいよ脂が乗ってくる頃合いだ。60年代に入ってからの怒涛の快進撃を見よ。その加藤の活躍ぶりは、わざわざ映画史の書物を紐解かずとも、映画体験として誰もが認めるところだと思う。この『炎の城』のあと、中村錦之助主演で『瞼の母』と『沓掛時次郎―遊侠一匹』を撮ることになるだろう。長谷川伸の戯曲を原作としたこの二本は、いまなお日本映画史上屈指の股旅物の傑作に数えられる。そしてまたもや大川を主演に迎えた『幕末残酷物語』。こうした時代劇の一方で、そののち60年代後半から70年代にかけて、山下耕作マキノ雅弘石井輝男中島貞夫深作欣二らとの強力なスクラムのなか、東映ヤクザ映画の黄金期を支えていくことも忘れてはなるまい。

レア作品ということもあって、早くもSNSのタイムライン上を沸々と賑わせはじめているようだ。とにかく必見。お見逃しなく。そしてここが肝心なのだが、録画もお忘れのないように。このときまでに溜まりに溜まったハードディスクの残量を空けておかなくてはならない。この二作がコレクションに加わると思うと、今から心が浮き立ちはじめている。2018年最初の月は伊藤大輔加藤泰のふたりによって締めくくられる。

 2018年1月30-31日、NHK-BSプレミアムにて
伊藤大輔『この首一万石』(1963年)
加藤泰『炎の城』(1960年)
http://www.nhk.or.jp/bscinema/calendar.html?next