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映画のために...

新たな「トリプル・エクラン」

21世紀の「トリプル・エクラン」――そう言えばよいか。ユナイテッド・シネマが3画面映画上映「ScreenX」を導入する。中央と左右に設置されたマルチスクリーンによって、観客の視界270度に映像が広がる。ネットで調べると、韓国の同名サイトがヒットした。どうやらこれは日本ではなく韓国が開発した上映システムらしい。向こうではすでに2015年からシネコンで導入されており、さらには中国やアメリカにまで上陸している。2017年の現時点で「ScreenX」興行は世界の100以上のスクリーンに拡大しているという。

 日本では先駆けてお台場の映画館がこのシステムで興行をはじめる。記念すべき上映作第一弾は『パイレーツ・オブ・カリビアン―最後の海賊』。下の画像にあるのがそれだ。興行は通常料金にプラス700円でおこなわれる。映画料金がどんどん高くなっていく。日本ではただでさえ高いというのに。もっとも、アベル・ガンスの「トリプル・エクラン」作品『ナポレオン』(1927、仏)をこのシステムで上映してくれようものなら、700円どころか数千円出したってまったく構わない。80年代にアメリカで再上映が試みられたように、サンレント末期のこの怪物的作品を21世紀的な環境で上映しようという映画史家や批評家があらわれてくれたら、わたしたちにとってこんなにありがたいことはない。

下の画像を見るかぎり、これは本来なら一つの画面=ショットだったものを三画面でより広く見せる上映形態らしい。当然ながらそれだけではないだろう。が、少なくとも横の広がりが生むパノラマ的魅力に重きを置いていることは確かだと思う。ガンスが開発した「トリプル・エクラン」の場合、三つの画面による大パノラマと感覚的ショックの点できわめて画期的だった一方、それぞれの画面のあいだにズレ――それは致命的と言うほかないズレだ――が生じてしまい、緊密かつ過不足ない画面繋ぎの点で大きな技術的課題を残すことになった。この「ScreenX」はその点を克服しているように思われる。その水平線を見ればわかるように、左、中央、右の各画面のあいだにこれというズレは確認できない。しかしながら、ひきつづき水平線を例にとるなら、ショットによっては各画面のあいだに角度が生じてしまっている。youtubeの宣伝動画にあるように、海がまるで台形のように見えてしまうのだ。これにはさすがに異様な違和感をおぼえた。IMAXのように緩やかな曲面のスクリーンのほうがまだ良い。

もう一点気になったことがある。それは、三画面で別々の空間を提示するような形式的実験がなされているのか、ということだ。すなわち、ショットの前後関係によるモンタージュではなく、三画面による並列的かつ同時的なモンタージュ。ひいてはそれが織りなす視覚的交響楽。ガンスと同じく1920年代のフランス映画理論に関していえば、それらはレオン・ムシナックが論じるところのリズムとも無関係ではないだろう。「トリプル・エクラン」が映画史を揺るがしたゆえんはまさにそこにあったのではないか。この技術はそうした新たなモンタージュの可能性へと開かれている。ただ横に広いだけでは面白くない。いくら臨場感があるとはいえ、そうした感覚的なものはすぐに飽てしまう。むろん、2D上映やDVDでの鑑賞を見越さなければならないから、ハリウッドのブロックバスター作品が「ScreenX」仕様でそうしたモンタージュ技法を実験するのは難しい。スプリットスクリーンを好んだ全盛期のデ・パルマなら、よし俺がやってやろうと食いついたかもしれないが。昨年のあいちトリエンナーレで上映された『三人の女』がそうであるように、実験映画やアヴァンギャルド映画にその模索を賭けるしかないのだろうか。

1. https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170601-00010003-piaeigat-movi
2. http://screenx.co.kr/en/
3. https://www.youtube.com/watch?v=r_l3Qt2CvtY