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映画のために...

ロバート・クレイマー特集再び

来たる5月に渋谷イメージフォーラムロバート・クレイマー特集が開催されるらしい。特集タイトルは「アメリカを撃つー孤高の映画作家ロバート・クレイマー」。Twitterでその情報を目にした瞬間、わたしの心のなかには歓喜にも似た感情がしばらく湧いた。とはいえ、その時期に東京と同じように名古屋でかかるはずもない。東京のシネフィルはさぞ贅沢なゴールデンウイークを過ごすことになるのだろう。羨ましいかぎりだ。

 ジガ・ヴェルトフ集団時代のゴダール+70年代のヴェンダースロバート・クレイマーの『アイス』と『マイルストーンズ』は、そんな政治映画のラディカルな実験性とロードムーヴィー特有の乾いた広大な風景をまとっている。アメリカそのものに眼差しを向けている点もゴダールヴェンダースに通じるものがある。

だが、今さら言うまでもなく、ゴダールが「ヌーヴェル・ヴァーグ」として、ヴェンダースが「ニュ・ージャーマン・シネマ」や「73年の世代」(蓮實重彦が『季刊リュミエール』でビクトル・エリセ、ダニエル・シュミッド、クリント・イーストウッドとともにそう名付けた)として語られるのとは違い、クレイマーにはそのような映画史的な位置づけがまるでなされていない。作品を見るかぎり、安易にドキュメンタリー作家などと括るべきでもなさそうだ。「孤高」とはまさしくそこを突いてのことなのだろう。思えば、やはり唯一無二の「孤高」と評されるロベール・ブレッソンもまた、いかなる映画史的なカテゴリーにも分類されることなく現在に至っているではないか。

この映画作家は20世紀末に山形国際ドキュメンタリー映画祭で特集され(その年の映画祭パンフレットがほしい!)、4、5年ほど前にも今回と同じタイトルの特集上映がなされた。ただし、あのときユーロスペースで組まれたプログラムには『ルート1/USA』はなかったはず。会場のフロアで上映を待っていた際、ある年配の男性観客が「山形で『ルート1』見た」といかにも自慢げに雑談していたのを聞き、その男に軽い嫉妬を覚えたことがあった。

この5月のイメージフォーラムでの特集ではそんな心配はいらない。『アイス』『マイルストーンズ』に加え、満を持して『ルート1』が上映されるのだ。なんと幸福な事態。このときをどれだけ待ったことか。ロバート・クレイマーに関しては、DVDはおろかこれといった批評もおよそ皆無なので、初めて見る方も再見する方も劇場へ行って何ら損はない。『ルート1』を見ることはもちろん、この機会に『アイス』と『マイルストーンズ』もぜひ再見したい。再見であろうが、たとえ馬鹿の一つ覚えのように10回以上見ていようが、映画とは常にそれが初体験であるかのように見る者に新鮮に迫ってくるものなのだ。それが傑作と呼ぶべき作品ならなおさらだろう。

とにかく開催そのものが喜ばしい特集だ。しかも16mmと35mmでの上映。恐らく名古屋の小屋でもかかると思う。なにせロバート・クレイマーなのだから。クレイマーをかけないようではダメだろう。あと、255分という長大な上映時間の『ルート1』を二回に分割する興行だけはやめていただきたい。そうなりはしないかと少しばかり心配している。喜びの半面で。

 

《特集上映》アメリカを撃つ 孤高の映画作家ロバート・クレイマー | シアター・イメージフォーラム